『回樹』 - 脱積読宣言

　月頭に〆切を設定してしまったせいで、見事に学生時代の悪夢がフラッシュバックしまくり。ここ一週間くらい学生時代の夢見てる気がする。という訳で、明日提出のはずの一切手を付けてない書類の山どうしてくれようw

「エンドロールに流れる肩書きが親友だと勿体ない気がしてきた。付き合おうよ、律」by千見寺初露

　
　初出のSFマガジン含めると早三度目の再読となる本作。何度読んでも変わらぬ鮮烈な読み味がとにかく出色。「リアル」な百合っぷるの顛末記として読むのもありじゃないでしょうか。

「日本人はやっぱり日本語が好きなんですよ。日本語が神聖なものっていうことになると、嬉しい」by編集者

　美容医療に新興宗教にインフルエンサーにニューエイジ思想に言霊信仰にと胡散臭いものの全部盛りでなんでこんな美しい物語が・・・と唖然とさせられます。個人的には骨刻は技術的にそこまで難しくなさそうな気もするので、リアルでも是非流行して欲しいなあと。

「一九八〇年代は本当に映画の黄金期だ。どれもこれも名作過ぎる。こういうのを見せつけられると、映画には魂があるっていうのが信じられるよな。こんなに面白い映画ばっかりが作られてる時代は他にないんだから」by町川

　『2084年のSF』で読んで痺れるほどの感動に打ちのめされた作品。再読時の感想は・・・出オチ系でしたかね。

「はい。私達に任せてください。全ての人に葬送を、というのが第五宇宙港の方針です。お任せください」by担当者

　死者の尊厳とか葬儀の意義とか残された者の想いとか墓地問題とか死体保存詐欺とかありとあらゆる問題提起を含んだこの上なく美しい物語。なにより腐らない死体を土台にした埋立地っていうビジュアルインパクトが凄まじすぎて。

「野暮なことを聞くのね。娼婦が口づけごとに亭主を変えると思う？」byマーガレット

　実話を元にハートフルなドタバタコメディに落とし込んだこの人にしては気楽に読める一篇。この面子でのほのぼの日常モノも読んでみたいなあ。

「私の仕事は黙って死ぬことだけよ」by洞城亜麻音

　本作唯一の書下ろし作品は傑作「回樹」の続編。田舎の因習に支配された横溝チックな怪奇ミステリーのソースをだばだばかけてるのになぜか爽やかな読み味に収まってる不思議な作品。良作ではあるんですが、このジャンルだと化物のような方々が既に他におられるので。

　初読は「回祭」だけなのに、普通に満足できたし、読むのに結構なカロリーも使った短編集。圧巻としか言いようのない素晴らしい作品群で改めて斜線堂有紀氏を好きになりました。ミステリが主戦場とのことなのでこんど改めてそっちの作品群も読んでみたいと思います。