脱積読宣言

日々の徒然に読んだ本の感想書いたり、カープの応援したり、小旅行記書いたりしてるブログです

『天切り松闇がたり 第三巻〜初湯千両』

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永遠の第二党の面目躍如ここにあり。ここまで来るとわざとやってるとしか思えんな。


 風邪引きました。あー頭が重い。

天切り松 闇がたり〈第3巻〉初湯千両

天切り松 闇がたり〈第3巻〉初湯千両

よごとにますのは 闇の静けさ

初湯千両

・・・河野軍曹、大隊長殿に意見・・・意見具申であります。二百三高地東堡塁の敵は、まったく健在であります・・・転身命令ねがいます・・・お願いであります・・・」by河野寅弥

 天佑神助の大戦景気に浮かれる大正十年の大晦日。厄落としの湯屋でシベリア出兵で父をなくした勲少年と出会った寅弥。彼の胸に去来するのは忌まわしき二百三高地の思い出・・・。

戦利品


 三巻目にしてようやく主役の回ってきた説教寅。抜け弁天の一味の中でも黄不動の栄治・振り袖おこん・書生常の若手三羽烏の華やかさに比べるとどうしても泥臭さの残る説教寅ですが、今回はその泥臭さが非常にいい味を出しています。浅田次郎は析の音の似合う大見得も最高ですが、泥と血と餓えにまみれた下士官の物語を書かせれば天下一品の出来栄え。如何な反戦教育よりもこの人の小説一本の方が、戦争の悲惨さを訴えかけます。

共犯者

それから―あいにく苗字はございませんの。」by「華頂宮綾子」

 憲政会の代議士への賄賂を懐に東京へ向かう榊原とその秘書が御殿場駅で出会ったリリアン=ギッシュ似の淑女。果たしてその正体は・・・

戦利品

  • 「船大尽」榊原藤吉郎・・・一万円+塩昆布の折詰。


 書生常が一人五役をつとめる渾身の一人芝居。本物の詐欺は騙された方も喝采を挙げるとはよく言いますが、まさにこれはそれを地で行っています。馬鹿らしくなるほど大掛かりで浮世離れした法螺話。こんな夢を一時でも見れるなら、身包み一切騙し取られても後悔ないんじゃないでしょうか。

宵待草

まてど暮らせど 来ぬひとを 宵待草の やるせなさ こよひは 月も出ぬ さうな  by竹久夢二

 古今無双の美人絵師竹久夢二。彼が次のモデルに選んだのは天下無双の天才掏師振り袖おこん。大正ロマンの華開く帝都東京の片隅の奇怪千万なるこのランデブー、いかなる落ちがつきますことやら。


 毎巻毎巻妙な御仁に惚れられて一騒動を巻き起こすおこん姐さんの次なる被害者は竹久夢二。カオスの極みのメトロポリス東京なぞ足下にも及ばぬほど洗練された帝都東京の美しさを是非ご堪能あれ。

楠公の太刀

抽斎は医者であり、同時に官吏であった。つまり同じ道を歩いた先人という意味で、私は抽斎を寵愛しておったのだがね。しかし、彼に引き比べてこの私は、ついに雑駁たるヂレッタンチスムの境界を脱することができなかった。省みて内心、忸怩たらざるを得んのだ。しかるに奇とすべきは、彼が康衢通逵をばかり歩いておらずに―」by森鴎外

 大東京百美人の口絵を飾る赤坂小龍。伊藤博文が座興に名づけた「小龍」の名。病を得て死の床にある彼女には明治帝の佩刀から取られたその名前は重すぎて・・・

戦利品
帝室博物館表慶館・・・備前国長船住景光 伝楠木正成公佩用 号小龍景光


 作者の寵愛を一身に受ける黄不動の栄治。贔屓の引き倒しもここまでくれば清々しいものがあります。大上段に振りかぶった舞台設定とそれに負けぬ名優陣の大見得が非常によくマッチした名編です。

道化の恋文

いかなる内容であれ返事の手紙は書きたまえ。パリジャンもジョンブルも、淑女の心に傷を残さぬ儀礼として、それだけは怠らぬよ。」by永井荷風

 青山子爵のお姫様が道化の息子に恋をした。四民平等の世の中とて叶わぬ恋はある。この悲劇以外に途のない破倫の恋の結末はいずこ。


 恋愛話。青臭さ満開の初々しい男女関係が非常に微笑ましいです。嗚呼あの頃に帰りたいなあ。
 しかしながら青山歌子の書く恋文のなんと堂々たるか。相変わらず浅田先生は登場人物に合わせて文章・台詞のレベルを下げるのが苦手のようで。
 

銀次蔭盃

二千の親になるよりも、私ァ親分ひとりの子でいてえんだ。ひとりの親のために、二千の子を路頭に迷わすのは不義でござんすか。」by杉本安吉

 仕立屋銀次と目細の安吉、今生の別れ!


 流石親分の大貫禄。安吉親分の所作の美しさはは下手に出たって何したって一切揺るぎません。小説だからこそ表現できる完璧な美しさ。死に体のはずの小説というジャンルの可能性を感じさせてくれる作品です。

すべてを捨てることさえいとわないのに

 浅田次郎の乗り切った脂がちょっと落ちて食べごろになった頃の本。完成された質の非常に高い作品が多いです。特に「共犯者」や「大楠公の太刀」は『天切り松闇がたり』シリーズでも一二を争う出来栄えではないでしょうか。小賢しい人情だの恋愛だのなんてのよりやっぱりブッチギリのピカレスクロマンが似合います。


Aristocracy

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