脱積読宣言

日々の徒然に読んだ本の感想書いたり、カープの応援したり、小旅行記書いたりしてるブログです

『牧歌』

 一日おくれ。私にしてはましな方でしょうか。狐狸庵先生のパリ留学時代の雑記と、海外紀行エッセイを纏めた一冊 遠藤周作『牧歌』新潮文庫(1974)を紹介します。とりあえず一言「ブンガクなんて嫌いだ。」以下ネタバレ注意

牧歌 (新潮文庫 え 1-6)

牧歌 (新潮文庫 え 1-6)

言い訳

 前半の留学時代の雑記は非常に面白うございました。後半の海外紀行もブンガク的臭みが多少鼻につきますが、読みやすうございます。旅行や紀行文が好きな人にはたまらないでしょう。どっちも嫌いなので、あんま感動しませんでしたが。
 中盤の日記が最悪でした。若さの情熱で懊悩されても、西洋文学に興味のないニ人間にどうしろというのでしょう。私小説が好きで、「文学の価値は人間の内面性への洞察の深さによってはかられるべき」*1と考える人には最高のものなのじゃないでしょうか。私は人の日記を読む趣味はないので正直退屈でした。日記を人に読ませる気ならあんま自分に酔った文章を書くな、中世の貴族を見習え、といいたいです。
 以上の理由により途中から半ば飛ばし読みなので前半の雑記についてだけ感想を書きます。

Yellow in White

 文章は朴訥な印象を与えながらも軽快で洒脱、思わず嫉妬と絶望を味わうような文体、なはずだったんですが、私の嫌いな方向に進化しちゃったみたいです。 戦後すぐ(昭和25〜33年)留学してただけあって、日本人に対する敵意と有色人種に対する蔑視の残るパリで暮らす作者の日常エッセイ。多少西洋コンプレックスが強い気がしますが、時代と宗教を考えたらしょうがないでしょう。変にブンガクしてなくて非常に読みやすく面白いです。完璧超人なはずだったパリの大学生も所詮同じ人間ダサいのも馬鹿もくずも等しく存在すると知った氏の愛すべき学友達への生暖かい視線は微笑ましく、親近感が湧きます。
 中でも「有色人種と白色人種」では今でも通じる人種差別への提言で、正直子の一篇だけでこの本を読んだ価値があると思ったほどです。氏は上から手を差し伸べる白人の傲慢を糾弾し、膚の色の違いもわきまえず「白人」になろうとするカラードの惨めさに嘆息します。人種差別の一端が文明人の美意識が全て白人を規範にしていることにあるとの指摘は、グローバリズムの進展こそが差別の温床となっている現代の病理を喝破してるように思えてなりません。白人追従をやめ、各人種固有の美意識を復権させることが「真」の差別解消の近道なのではないでしょうか。「差別はいくない」と教育し、言葉狩りを推進しても絶対に差別はなくなりません。そんなことをすると社会に適応できないひねくれ者を却って
過激な差別主義者に育成するだけです。区別の肯定と自身の差別意識の直視こそが今求められてるのではないでしょうか。と過度の配慮によって逆に差別主義者になってしまったひねくれ者が高説をぶってしまいました。お耳汚しでしたらご容赦下さい。(盲や気違いはともかく非人まで一般変換できないのは非常にめんどいんですが)

二戦二敗

 完敗でした。流石に懲りました。暫く名作な小説からは遠ざかろうと思います。嗚呼エンターテインメンツなブンガクがよみたひ。

今日の名言

 憐憫は我々を袋路に追い込む
 いっそ罵って!

*1:梅原猛『地獄の思想』より引用