脱積読宣言

日々の徒然に読んだ本の感想書いたり、カープの応援したり、小旅行記書いたりしてるブログです

汚名挽回と鈴木清明と箱入娘面屋人魚について

公明党が「電話で共産党候補に投票依頼した運動員」を告発
さあ皆さんご一緒に。お前が言うな。


 日々是好日。退屈こそが至上の幸福です。

夕闇せまり最後の夜が明けたら泳いでく 静寂の海に

汚名挽回+辞書

エマの脱走 - 脱積読宣言

汚名
 芳しくない評判。不名誉。(『大漢語林』より引用)

挽回
 元に引き戻す。恥を雪いだり、遅れていることを取り返したりする。回復。(『大漢語林』より引用)

辞書
 dictionaryの訳語。文字や言葉を一定の順序に並べ、その発音や意味・用法などを説明した書物の総称。中国では、文字を字形(部首)によって配列する「字書」、音韻によって配列する「韻書」、言葉を事項によって配列する「辞書」の系統がある。辞典。字典。字引。(『大漢語林』より引用)

 汚名挽回は間違ってない。これを主張する事が当ブログ開設初期のテーマの一つでした。その論拠は「挽回」には「頽勢を挽回する」などの用法に見られる通り、「悪い状況を元の(良い)状況に戻す」という意味があるというものです。
 この主張はもう飽きるぐらいに書いた気がするので、辞書上での「汚名挽回」での扱いについて。まず書籍上では「汚名挽回」は当然の如く登場せず*1、かろうじて『岩波四字熟語辞典』の「名誉挽回」の項に「なお「汚名挽回」という表現は「名誉挽回」との混同から来たもの。」との言及が見られるくらいです。web辞書はもう少しましで、我等がはてなダイアリーには独自の項目が立てられおり、誤用説の誤謬が高らかに謳いあげられています。
 当てにならない辞書を無視して実際の用例を参考にすると、以下のような流れを見せています*2。'70年代からちらほら見られ始めるこの表現は'80年代には完全に普及しきって論文小説エッセイ駄文と文章の巧拙貴賤を問わず用いられていました。'90年代に入ると大野晋らの先導する日本語ブームにより「誤用」が糾弾され始め、新世紀に入った頃には掲示板上で「誤用」の揚げ足取りが猛威を揮い、現在は「有識者」による「再評価」の時代に入っていると考えられます。

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カープ+鈴木本部長

縮小更新 - 脱積読宣言

広島カープ
 株式会社東洋カープセントラル・リーグの一つ。1949広島市民をバックに誕生したが、資金難が続き球団の組織は苦しい限りであった。'68東洋工業の援助があり、実力をつけるに至った。広島市民球場を本拠地とし、現在は独立採算となったが、その恩に報いるため「東洋」の名を残し、広島東洋カープが球団名、通称広島。'75初優勝。
 ニック・ネームは、ティーム結成時はレインボー・シープ、ブラック・ベアなどが候補に挙がった。広島城は「鯉城」とも呼ばれ、太田川は鯉の名産地ということで「カープ」になった。(『球技用語事典』より引用)


 昨年末頃2ch野球板上で局所的な人気を誇ったカープの鈴木球団本部長。黒田の流出を食い止め、前田緒方佐々岡らベテラン勢の年俸アップを掣肘し、黒字経営に貢献する貧乏球団カープの柱石。大リーグへの門戸開放とFA制度により歯止めの効かぬ選手年俸のインフレに一人敢然と立ち向かう孤高の勇者たる彼ですが、一企業に属する私人という立場上、くわしい事績経歴は殆どつまびらかにされていません。
 風の噂に聞くところでは、金本流出・野村佐々岡緒方前田のベテランカルテットの年俸高騰による球団経営の危機に瀕した松田元オーナーが「実家」のマツダから招聘した敏腕法務部長が彼鈴木清明ということです。事実ここ数年のカープは通年で活躍した若手への厚遇、年俸面での評価が難しいベテラン勢には引退後の幹部待遇保障という形での補填などを行うことにより、過度の人材流出を伴わない人件費抑制に成功しています。
 ただ問題はそれが成績に直結していない点。ブラウン監督今年こそは頼みますよ。

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箱入娘面屋人魚

Hey Boys! Hey Girls! - 脱積読宣言

箱入娘面屋人魚
 山東京伝*3作、北尾重政*4画。上中下三巻三冊十五丁。寛政三(1791)年蔦屋重三郎*5版。

 絵題簽には干支と作者名「京伝戯作」が明記されている。『小説年表』類には、画工を歌川豊国*6とするものが多いが、明らかに北尾派の画風であり、京伝自画ならば自画と署名があってしかるべきところ、これが無い故に、北尾重政の手に成るかと推定しておく。なお、半紙本体裁の後刷本(刊年未詳)がある。(『山東京伝全集 第二巻 黄表紙2』より引用)

 浦島太郎が乙姫の侍女のお鯉と密通の結果生まれた人面魚身の娘。良人の裏切りに怒った乙姫により龍宮を追放された彼女が流れ着いたのは神田の八丁堀の釣り船の平次の下。そこで人魚と欲深き江戸っ子たちの巻き起こすドタバタ喜劇。
 というのが概要です。内容はシュールな脱力コメディといった体で、随所に散りばめられたくすぐりがお好きな人にはたまらないかと。落語やお江戸でござるなんかが好きには大変オススメです。文章も挿絵も今の目から見れば正直稚拙の極みですが、その分自然石で頭を殴られるようなプリミティブな天然の破壊力を秘めています。無理に喩えれば『姉ちゃんの詩集』の読後感に近い者があるでしょうか。
 小賢しい知恵のついてしまった現代作家には決して生み出せぬ独特な破天荒世界を是非堪能あれ

山東京伝全集 (第2巻)

山東京伝全集 (第2巻)

僕は若さを裏切ることできずに 君の中に咲いた欲望だけ見た

 正しい日本語、古き良き日本といった場合たいてい規範にされるのは昭和中期の時代であり、どんなに遡っても明治期を越えないのに不満を感じます。これほど、これらの胡散臭いスローガンが、時代に見捨てられた旧世代の懐古に過ぎないという事実を表すものはないでしょう。勿論基準とする常識道徳が少年時代のものに固定されてしまうのは人間として当然です。私だってあるべきカープと言えば大野北別府川口佐々岡の投手王国か野村緒方江藤前田金本のビッグレッドマシンを思い浮かべてしまう訳です。脱線しますが、最近の子らにとっては鈴木本部長政権下の東出新井らのファンタジスタ達がカープの象徴と成るのかと思えば、微笑ましくも悲しいものがあります。
 閑話休題。とは言えせめて国語についてはもっときちんと時代を遡ったところに規範となる定点を置く必要があるのではないでしょうか。「正しい日本語」とぶち上げ汚名挽回などの誤用を糾弾するからには、四書五経とは言わないまでもせめて江戸期の読み物、例えば上でも紹介した「箱入娘面屋人魚」などの黄表紙位は典拠にしてもらいたいものです。辞書に載ってるからと言って、夏目や正岡辺りに蹂躙された明治期の小説で捏造された単語を典拠にされても正直困ります。国語教師の皆様方には是非とも文語体復活を御一考願いたいものです。当サイトも「正しい日本語は豊かな漢文の教養から」をスローガンに頑張っていきますので。

追憶のマーメイド

追憶のマーメイド

*1:そもそも名誉挽回や汚名返上すら殆どの辞書には載っていません

*2:体系的な統計一切なしの体感的なものですので、誰か真面目に研究してみてください。

*3:父岩瀬伝右衛門、母大森氏。本名:岩瀬醒。別号北尾政演、身軽織助。プロ戯作者のパイオニア。北尾重政に師事。弟子に滝沢馬琴ら。代表作:「江戸生艶気樺焼」(黄表紙)、「傾城買四十八手」(洒落本)、「忠臣水滸伝」(読本)他。

*4:父須原屋三郎兵衛。北尾派の祖。弟子に山東京伝、北尾政美ら。代表作:「東西南北之美人図」他

*5:父丸山重助、養父喜多川氏。本名喜多川柯理。日本出版業の父。喜多川歌麿東洲斎写楽らをプロデュース。TSUTAYAの語源。

*6:歌川豊春に師事。江戸後期役者絵の大家。