ノストラダムスの脅威は去り、UFOの鉱脈もミステル・ヤオイに掘り尽くされ、ユダヤにいたっては、そもそも2000年も前からよっぽど厄介な民族とお隣付き合いしてきた経験がある。と、新世紀に入ってネタも尽きたかと思えた日本の陰謀論ですが、最近新たな鉱脈が発見されました。『人類の月面着陸はなかったろう論』、折りしもアメリカの情報操作が問題になっていた2002年、テレ朝で放映されたのを端緒に、燎原に火の広がる如く、アメリカの非道なる悪事が日本国民に周知されたのです。というのは大袈裟ですが、冒頭の署名を本屋で問い合わせたら、迷わず副島隆彦著『人類の月面着陸はなかったんだろう論』に誘導されるくらいには売れてるみたいです。しかし、この陰謀論の賛同者ですが、窪塚洋介だの大槻教授だの、名前を聞いただけで眉に唾つけたくなる連中ばかりなのは笑えます。以下ネタバレ注意
- 作者: 副島隆彦
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2004/06/21
- メディア: 単行本
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星の光にくらぶれば
本書の構成は一章で宇宙開発の歴史のおさらい、二章ムーンホークス*1の歴史、三章ムーンホークス論基礎講座、四章同説を取り扱ったテレビのいい加減さを糾弾、五章『人類の月面着陸はなかったろう論』を弾劾、六章でまとめ。となっていますが、おそらく発起人で看板たる山本弘氏は五章のみを執筆、他は残りの4人*2 が担当という形となっております。中学生並の正義感を持つ山本氏が義憤にかられて持ち込んだ企画だろうとは想像に難くないですが、こんな売れそうにない企画押し付けられた楽工社はたまったもんじゃなかろうと思います。ベストセラーになったわけでもない本の反論本なんて書いても誰が買うんでしょうか。まあここに予約して買った馬鹿がいますけども。
さて肝心の内容ですが、典型的な理系の書いた本で、問題点を一つ一つ潰して行くという、文系人間からするとちと味気ない本になっています。もう少しこういう珍説がのさばる文化的背景を解説して欲しかったのですが、欲張りすぎでしょう。資料やうっかり填まってしまった人への解毒剤にはいいんじゃないでしょうか。余談ですが、五章の山本氏明らかに感情的になっていて構成も糞もあったもんじゃなくなってるんですが、それでも(専門用語を理解する努力を放棄すれば)分かりやすく、単純な読み物としてもそこそこ面白いってのはうらやましい限りです。
アポロという名の光をたずさえ
最後にまとめ。正直我々アポロ計画を知らない世代としては、月面着陸などそこまで重要なことだとは思えないのですが、直撃世代にとっては、科学文明の象徴として非常にエポックメイキングな出来事だったようです。そのため、こんなスケールの小さな陰謀論でも大きな話題になるのでしょう。無限のフロンティアだったはずの宇宙が遠い夢物語になってしまってはや久しいですが、我々の子供たちは再びアポロ計画のような夢を見ることが出来るのでしょうか。
今日の名言
人間は生身でも宇宙空間で一分くらい生きれる
人間って意外と頑丈
- アーティスト: ポルノグラフィティ,ハルイチ,ak.homma
- 出版社/メーカー: SME Records
- 発売日: 2006/03/29
- メディア: CD
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*1:人類の月面着陸はなかったろう論の海外での正式名称。外人さんはこういったトンデモ学説でもかなりまじめに研究していて膨大な議論の蓄積があります。本来日本のテレビ屋風情が軽い気持ちで手を出せる代物じゃないのです。
*2:江藤巌氏は寡聞にして知りませんが、残りの植木不等式・志水一夫・皆神龍太郎の三氏は日本での数少ないデバッカー (いわゆる超科学を検証する人たちのこと。)として超一流の人たちです。ただ理系特有の分からん人間には欠片も面白くない文章を書くので全然売れてません。日本はこの分野が致命的に後進的で、トンデモな物件が跳梁跋扈する土壌となっております。日本の学者は真面目すぎてトンデモな学説を黙殺する悪い癖があるので、諸外国からみれば非常に稚拙なトンデモ学説が未だ命脈を保っています。カルト宗教と隣接領域にあって放置しとくと何気に危険な分野だけに、お高く止まってないで何とか対処して欲しいもんです。