特殊清掃「戦う男たち」
悲劇と喜劇は紙一重
巡回コースに組み込まれたか、三日連続で下宿が同一個体と思しきスズメバチに襲撃*1されました。あの独特の風切音で起こされるのはもう勘弁です。以下ネタバレ注意
- 作者: 山田風太郎
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嘆きの中 希望の中 命の意味を覚えて
山田風太郎ここにあり。古今東西偉人狂人の臨終の姿を、巷説風説何でもござれの名調子で活写した風太郎文学の集大成。これを読まずに風太郎を語る勿れ。
-謝罪文-
私事多忙につき、当初は全部読み切ってない段階*2での感想です。事実誤認等ございましたら、コメントにて指摘お願いします。
よくも悪くもいつもの風太郎節で安定して読めます。相変わらず、事実かどうかの危ない橋も渡りまくってますが、それも味と言えばそれ以上ツッコミどころもありませんし、むしろツッコんだら負けのような気もします。後、これは私もしばしば指摘される悪癖なのですが、知識レベルを自分基準に置いているので、生前の事績の説明不足甚だしいものがあります。ある程度の以上の知識がないと、感情移入は難しいんじゃないかと思います。同い年でどんな奴が死んでるのかとか、好きな戦国武将の散り様は如何に、とかつまみ食いするのが正しい読み方でしょう。
にしてもやはり風太郎の名調子はカッコいい。もともと追う大仰な語り口が魅力なので、大往生の描写が映えます。歴史の偉人を登場人物にすることで、感情移入の手間を省き、感涙必至の名場面だけを抽出する見事な発想*3です。尤も一気に読むと胸焼けするので、一日二三人にとどめておきましょう。
分かりなさい 背きなさい 私など忘れなさい
私も茫洋と時を過ごす内、重ねた馬齢も早四半世紀に及ぼうとしています。いくら今と昔では時間の流れる早さが違うとは言え、自身の卑小さに暗然たる想いを禁じ得ません。享年二十四五の有名人を見ても、姉小路公知*4・沖田総司*5・難波大助*6あたりならまだしも、樋口一葉*7・滝廉太郎*8が今の自分とほぼ同年でなした作品にはただ圧倒されるばかりです。ましてや橋本左内*9が同年代だなんて、考えたくもありません。
彼らの偉業に及ぶことは無理にしても、せめて藤村操*10の如く鮮烈な印象を世界に刻んで散りたいものです。もっともこの世に未練も負債もたんまり残したままなので、何か思いついたとしても、実行は当分先のことになりそうですけどね。
今日の一行知識
鬼の色が赤青黒の三色なのは、死体の状態変化*11になぞらえてあるから
人間の想像力は意外と限定的で、完全オリジナルな怪物妖怪の想像はほぼ不可能なんだそうで。ちなみに牛の角と虎柄パンツは艮(うしとら)が由来。
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*1:壊れた網戸放置してるこっちも悪いんですが、そろそろ道おぼえてくだしゃい。
*2:一気にまとめ読みする類の本ではない気はしますが。
*3:大分格は落ちますが、一昔前に流行った『バトルロワイヤル』もこの手法の劣化版と言えるでしょう。人を殺せば、泣きのシーンが簡単に作れる。だったら沢山殺せばいいじゃないとの短絡的な発想が想像できます。仮にも文士様なら人死のからまない感動モノに挑戦してほしいものです。
*4:天保十(1839)〜文久三(63)年。攘夷派公家。勝海舟らの懐柔による開国派への接近を憂慮されたか。京都御所朔平門外で暗殺
*5:天保十五(1844)〜慶応四(68)新撰組一番隊組長。結核にて死亡
*6:明治三十二(1899)〜大正十三(1924)年。虎ノ門事件下手人。絞首刑。
*7:明治五(1872)〜二十九(96)年。五千円札作家。「たけくらべ」他。結核にて死亡
*8:明治十二(1879)〜三十六(1903)年。作曲家。「荒城の月」「箱根八里」他。結核にて死亡。
*9:天保五(1834)〜安政六(59)年。松平春嶽の側近。一橋派の理論的中心としての活躍が、慶富派筆頭井伊直弼に恨まれ、「安政の大獄」にて斬首。
*10:明治二十一(1886)〜三十六(1903)年。一高生。「巌頭の感」を残し、華厳の滝にて投身自殺。
*11:死亡直後の血の気が引いた状態(青)→死後膨張(赤)→腐敗・ミイラ化(黒)