脱積読宣言

日々の徒然に読んだ本の感想書いたり、カープの応援したり、小旅行記書いたりしてるブログです

『閔妃暗殺』

 友もすなるblogなるものを我もしてみんとてすなり。というわけでモラトリアムのつれづれに日記の代わりに個人的備忘録として読書感想文でも書こうと思います。方向性が一定でない上に偏った蔵書なので、読んでもトリビアルな知識しか得れませんが、お暇で心の広い方は暫くお付き合い下さいませ。

 それでは早速記念すべき第一冊目 角田房子『閔妃暗殺 朝鮮王朝末期の国母』新潮社(1988)を紹介したいと思います。うちの最寄のスーパーに月二回出張してくるスペースコアという古本屋で\100で購入しました。さて肝心の内容ですが典型的な竜頭蛇尾で失敗した論文という感じですが、入門書としてはよくできた閔妃の伝記となっております。閔妃の主人公補正と金玉均・大院君の悪役補正を脳内修正するのが苦でないなら19世紀後半の朝鮮半島事情を理解するいい手助けになるんじゃないでしょうか。


以下ネタバレ注意

導入


 私は知らなかった。私は知りたい。私は知るだろう。この忌まわしき血統に塗り込められた罪を。そして私は旅立つ。知ることがそして伝えることが唯一の贖罪だと信じて・・・


とでもアオリたくなるくらい意味深な導入で、結論である閔妃暗殺への陸奥宗光の介入を仄めかします。しかし、「ある日突然身近な人に忘れられた聖域に連れ込まれ自分の血統にかくされた忌まわしき秘密を告げられる」なんて、何かのラノベのプロローグを彷彿とさせます。あとどーでもいいことですが、この結論は間違ってます。新発見したはいいけど資料固めをしてたら怪しくなってきたんで放棄したけど名残惜しくて大仰な枕に使っちゃった、ってとこでしょうか。身につまされます。

 さて本文ですが、簡単な時代背景の説明を経て、登場人物の紹介に移ります。まず終生のライバルたる舅の大院君がいかにして逆境から成り上がったかが説明されます。宮廷内部の暗闘が大好きな人はたまんないじゃないかと思います。特に日本の平安時代の政争が大好きな人は堪能できるんじゃないでしょうか、つーかぶっちゃけしました。そして、お次は主人公の閔妃の半生が情感と思い入れたっぷりに描写されます。ここら辺は少年マンガで育った自分なんかにはゲップが出るくらいの濃い目の描写が続きます。「完璧なはずの私、けど陛下は私に振り向いてくれない、けど私は嫉妬なんかしない、だって私は完璧なんだもの」って感じで資料が少ないのをいいことに好き勝手美化してあります。挫けないでください。

日本、襲来

 そんなこんなで少女漫画の一本や二本書けそうな日々の果て、ようやく閔妃にも子供ができ、彼女の元に閔氏一族が集い、舅の大院君率いる李氏一族と血みどろの政権抗争を始めます。その最中空気を読まない悪の日本軍が開国を迫り、介入してきます。ここで一致団結できてたら朝鮮半島の未来も明るかったのでしょうが、両者は日清露の三カ国を渡り歩きながら興亡を繰り返します。ちなみにざっと解説すると閔妃親日の改革派の尻馬に乗り壬午軍乱で守旧派の大院君を追い落とし、金玉均ら改革派のクーデターを清の力を借りて鎮圧し、日清戦争で清軍が駆逐されると、ロシアに接近する、と僅か三十年の間に華麗な転進を見せます。(自主独立の為外国勢力の利用しすぎには注意しましょう)

終わりの日

 日清戦争終戦の夏、そんなこんなで閔妃の女狐っぷりに愛想を尽かした日本が閔妃暗殺の首謀者の三浦梧楼を朝鮮公使に任命します。先任公使の井上馨が改革派の煽動に失敗したのをみて三浦は朝鮮の改革をあきらめ、影の実力者の閔妃の暗殺を決意します。当時朝鮮に大量に流入していた大陸浪人を組織し(計画時点ではあの与謝野鉄幹も参加していたそうです)、大院君を神輿に、皇宮守備隊の暴動を装い夜陰に紛れ閔妃を暗殺しようとしますが、老耄した大院君の説得に失敗し、無駄に時間を浪費した挙句、日は昇り大量の目撃者を出し、隠蔽工作に失敗します。筆者の角田氏はこの計画の杜撰さを指摘して、正当性のなさを訴えますが、正直逆にこんな適当な計画で事実上の国家元首を謀殺される朝鮮の脆弱性を感じさせます。さしもの悲劇のヒロインも傾いた国運に抗うことはできなかったといったところでしょうか。

まとめ

 角田氏は計画に参加した大陸浪人の中に外務大臣陸奥宗光が過去に世話をしていた岡本柳之助がいたことを理由に、日本政府の組織的介入があったと結論つけたがっているようですが、私自身の結論としては、日本政府の黙認を取り付けたと誤解した三浦梧楼の暴走であろうと考えます。日清戦争で諸列強の日本に対する評価を非常に気にかけていた陸奥宗光がこんな危険な橋を渡るとは到底思えないのです。ちなみに、懸念された諸外国の批判はほとんどなかったようです。自分たちも多かれ少なかれ同じ事をやってるのだから、利害が絡まない限り気にしないということでしょう。ロシアもイギリスに牽制され碌に動けなかったみたいですし。結局閔妃暗殺では何も解決せず、日露戦争までもつれ込み、朝鮮半島は今も迷走を続けているのはご承知の通りです。我々は国運の衰亡に抗えなかった哀れな王妃を悼むより、国家存亡の時に当事者能力を喪失してしまうことの恐ろしさを胸に刻むべきではないでしょうか。

今日の一行知識

 太極旗を考案したのは金玉均
  日章旗に似てるのは偶然じゃなかったんすね