脱積読宣言

日々の徒然に読んだ本の感想書いたり、カープの応援したり、小旅行記書いたりしてるブログです

『巷説百物語』

http://www.sankei.co.jp/enak/2006/mar/kiji/06jrtokaimoe.html
猫娘

 縁起をかついで、更新溜めてみることにしました。
 嘘です。医者辞めて小説家を目指す、経済観念に乏しい、もとい肚の据わった先輩の取材に同道して、福井の剛田先生*1ん家に遊びに行ってました。今日はその先輩に借りた本を取り上げようと思います。早く本人の書いた小説のレビューを書きたいですね。期待してますよ、先輩。では以下ネタバレ注意

巷説百物語 (角川文庫)

巷説百物語 (角川文庫)

遅蒔きの惨劇は永く

 「のさばる悪をなんとする、天の裁きは待ってはおれぬ、この世の正義もあてにはならぬ、闇に裁いて仕置する、南無阿弥陀仏」なお話です。
 文章は平易で読みやすく、人気の理由が分かります。歴史用語を一切の説明もなく当たり前のように用いているのが不親切ですが、ジャーゴンと割り切れば、問題なく読めるでしょう。勧善懲悪のエンターテイメントに徹することで、読み捨て安い作りになっています。それでいて、時代考証は多分ほぼ完璧。構成は技巧的で、物語は澱みなく進行します。欠点らしい欠点のない作品ですが、小綺麗に纏まり過ぎて印象に残りません。ミステリ畑で鍛えた文章の読みやすさが、怪談というジャンルと致命的な齟齬をきたしています。作者も作中で語っていますが、朗々たる雄弁で分かりやすく語られる怪談は興醒め以外の何者でもありません。
 怪談をフレーバーとギミックに使ったミステリとして読むのが正しいのでしょうが、個人的にミステリは嫌いなのでどうしても絶賛する気になれません。繰り返しになりますが、ホント読み安いので、長時間の移動の友にするのが正解でしょう。西村京太郎よりは遥かにましです。

罪も科も斬らば御破算

 最後のネタ晴らしが、理不尽を旨とする怪談の良さを完全にスポイルしている気がしないではないですが、怪談や怪異譚を現代風にリファインするにはこの方式が一番なのかもしれません。
 理不尽のみが唯一無二の回答だった近代以前と、ほぼ全ての事象が解析され検証され、何らかの説明が要求される現代と、どちらが暮らし安いのでしょうか。枯れ尾花を見つけないと安心できない、なんてのは野暮の極みだとは思いませんか。

今日の一行知識

「眉に唾をつける」のは狐狸に騙されない為のおまじない*2
眉唾で済んだ素朴な昔と違って世知辛い昨今、甘い言葉と見目麗しき美男美女には御注意を。

夢幻泡影

夢幻泡影

*1:http://blog.goo.ne.jp/event-horizon_singular-point/

*2:古来日本では唾には破邪の力が宿ると信じられていた。傷に唾をつけるのや、嫌な奴に唾を吐きかけるのはそれ故。なんでも、眉に唾をつけることで、目に破幻の力が与えられんだそうな。