脱積読宣言

日々の徒然に読んだ本の感想書いたり、カープの応援したり、小旅行記書いたりしてるブログです

『審判の日』

 危ない。また三日坊主になるとこでした。知ってる人は知ってるでしょうが、我が家の本棚が崩壊してしまい、一日不貞寝してました(現在まだ直ってません。友人知人一同は手伝いに来なさい)。なので今日は既読の本でお茶を濁したいと思います。山本弘『審判の日』角川書店(2004)です。本当は同じ作者の『神は沈黙せず』を紹介したかったのですが、500ページ二段組みを読み返す時間と気力がなかったので短編集で勘弁してください。それで作者の山本氏ですが、と学会の会長として「トンデモ本」の概念を生み出したり、『ロードス島戦記』のディードリットの中の人として、日本のエルフのアーキタイプとなったりと、90年代日本のサブカルチャーを語るには欠かせない人ですが、本人は本業はSF作家のつもりのようです。「心はいつでも15歳」をモットーとしてる通り政治観・正義感・人格の全てが中学生で止まった困ったチャンですが、「才能と人格は別」を地で行くいい小説を書きます。ライトノベルが多いので人は選ぶでしょうが、是非一読してみることを進めます。さて、この短編集ですが、作者の趣味か、ヒロインの性格パターンが一つしかないので一気に読むとゲップが出ますが、一篇一篇はよく練られた珠玉の短編になってます。
では以下ネタバレ注意

闇が落ちる前に、もう一度

 山本氏お得意の、SF的学説を基にした一篇。「この世界は混沌の海の中で素粒子が偶然に秩序だっているよう見えるように並んだものに過ぎず、二週間しか存在を許されていない」という学説を証明してしまった主人公がそのことを恋人に手紙で報告するという単純なプロットですが、図らずも世界の真実を知ってしまった主人公たちの絶望感の描写が秀逸です。生きる意味なんてものを全否定するような世界観が素敵なのでお勧めです。あと大学の研究室が主な舞台なので、理系の人はもっと楽しめるんじゃないでしょうか。にしても、ヒロインの萌衣って名前は何とかならんかったのでしょうか。

屋上にいるもの

 雨の日だけ屋上から響いて来るなぞの音、主人公のマンションで続発する行方不明事件とその音との関係は!?って話です。中盤の推理部分は正直たるいですが、音の正体=犯人の正体が分かるクライマックス部分は、非常に残酷に幻想的で、ファンタジー作品を多く手がける作者の面目躍如です。

時分割の地獄

 ハズレかな。「人格」を持つに至ったバーチャルアイドルプログラム、彼女に「魂」はあるのか、っていうお話、理詰め過ぎて面白くないです。

夜の顔

 うって変わって、「理不尽」な話。「理不尽」なのであらすじ省略。恐怖ってのは理解できないからこそ恐ろしいというのを究極まで突き詰めた作品。おどろおどろしい怪物も霊も出てこないのにものすごく怖いです。一番のお気に入りの短編なんですが、気に入りすぎると逆に感想書きづらいっすね。

審判の日

 表題作。力入り過ぎて思いっきり空ぶってます。「世界の滅亡を望む生命体の世界と、望まぬ生命体の世界との二つに世界は分かたれた。滅亡を望むものたちの世界で出会った一組の少年少女の運命は!?」ボーイミーツガールもので主人公カップルに感情移入できないのは致命的だと思います。作者が登場人物に感情移入しちゃったら読者の介入の余地がなくなっちゃうんですよね。もう少し冷静に書きましょう。

まとめ

 当たり外れが結構大きいですが、各所にちりばめられたSF的ギミックと、少し突き放し気味で書かれた人物の描写は秀逸です。全体に漂う「生きる意味」への斜に構えた視線。ニヒリズムを肯定した上でそれでも生きるという回答はどんな宗教や哲学よりも、究極的に無意味な人生を生きる勇気を与えてくれるのではないでしょうか。

今日の名言

「意味がどうだなんて話、どうでもいいことよ。そんなものなくたって、生きていける。」 「夜の顔」より名倉詠美
人生は所詮50年の暇つぶし。