脱積読宣言

日々の徒然に読んだ本の感想書いたり、カープの応援したり、小旅行記書いたりしてるブログです

『宮大工千年の知恵』

 親愛なる京大生諸君、今年はこれだそうです。
http://euro2002.hp.infoseek.co.jp/orita_top.html(今年の状況はその九に)
 こんな狭く世代交代の激しいコミュニティですら技術と伝統の発展継承がなされているというのに、日本の建築界の現状はどうしたことでしょう。止まらぬモラルハザード、喪われ行く技術。毒を吐き出すいい機会だった耐震強度偽装事件も、ライブドア事件というよりキャッチーな事件の出来により、興味は薄れ、今回も結局真相と問題点は藪の中で終わりそうです。「姉は一級建築士」なんてことやってる場合じゃないはずです。http://aneken.com/(18禁)
 こんな時代こそ温故知新の精神が大事なのではないでしょうか。中世建築に魅せられた宮大工。現代と過去の狭間に生きる前時代人、生きた化石と切り捨てるのは簡単ですが、喪われかけた古い時代の生き証人として、耳を傾ける価値はあるでしょう。老人の繰言は若いうちは耳に痛いですが、年をとればそれを次の世代に申し継ぐことこそが自分の使命だったと気付くのですから。
 とまあ、最近枕を考える方が面倒臭くなりつつありますが、めげずに行きましょう。では以下ネタばれ注意

宮大工千年の知恵―語りつぎたい、日本の心と技と美しさ

宮大工千年の知恵―語りつぎたい、日本の心と技と美しさ

Heart of Wood

 本の内容は自身の四十余年に及ぶ宮大工人生の回顧談。けっしてお世辞にも巧みとはいいがたい文章のたどたどしさが、作者の性格の真面目さを表し、非常に独特な魅力となっております。平易な文体で一時間もあれば読みきれる程度の分量なので、通勤通学の手遊びに丁度いいと思います。ただし、読み終えた後寺社仏閣巡りに行かずにおれなくなること必定ですので、くれぐれも週末の予定を空けておくことを忘れずに。
 とはいえ所詮素人、文章そのものに読ませる力もなく、一冊分を持たせれる程多彩なネタもないので、途中から同主題のリフレインで正直飽きます。調べると同じ作者で同主題の単行本が他にも出ていますが、二匹目の泥鰌にひっかかってやる義理はないと思います。

 内容について。専門家によくある傾向ですが、自分の時代・分野こそが最高・最良で、何故他の分野や時代はこれに学ばないのだろう、というのが一貫した主張で、一言で要約すれば「中世日本木造建築(特に折衷様)は世界一ィィィィィ」って感じでしょうか。少なくとも作者に費用対効果の概念はなさそうです。とはいえ採算無視のワンオフ設計こそが、古代中世遺跡の壮大なロマンの源泉なので、時折混じる現代批判さえ見ない振りすれば、中世の技術者たちの偉業とそれを受け継ぐ現代の匠の業に素直に頭が下がります。
 全般的に専門用語・技術の解説の咀嚼が未熟で、門外漢には少し凄さが伝わり辛かったですが、素人でも感心した知識をいくつか紹介して終わりにします。
 -礎石を置くのは安定の為でなく、柱が地中から水を吸うのを防ぐ為
 -中世木造建築の技術の断絶は江戸時代に既に起きていた。
 -中世建築の特性として、わざと各建材のサイズを不統一にして各部に遊びを持たせているところにある。

まとめ

 全般に漂う説教臭さはいただけませんが、年配の方に話を聞く際の宿命と割り切りましょう。西洋合理主義に陵辱され、もはや往時の姿を取り戻すことの叶わぬ木造建築技術、我々が寺社仏閣に心惹かれるのは、それがただ朽ち行く定めのうたかたと心の何処かで悟っているからなのでしょうか。

今日の一行知識

現存する日本最古の落書きは法隆寺の「女性上位性交図」
現代語訳すれば要するに騎乗位のこと。書いた本人もこんな大事になるとは思ってなかったんでしょうね。落書きは計画的に。