脱積読宣言

日々の徒然に読んだ本の感想書いたり、カープの応援したり、小旅行記書いたりしてるブログです

『ジャンヌ・ダルク』

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戦う聖女

 ただいま、です。盆に母方の親戚回りをしたのですが、正直従姉の息子(2歳)より、広い庭で放し飼いの片目の潰れた犬(血統書付の雑種)の方が遥かにかーいかった自分は、人間としてどうかと思いました。

ジャンヌ・ダルク (中公文庫)

ジャンヌ・ダルク (中公文庫)

「私は今、ここに誓う、あの神の名において・・・」

ジャンヌ=ダルク Jeanne d'Arc*1
1412〜31。フランスの愛国者。ロレーヌとヴァロア境界の一村に農民の娘として生まれる。13歳の時天使のお告げを聞きフランスをイギリス軍から解放することを決意。シャルル7世に謁見して軍隊を委ねられ、1429年、7ヶ月間包囲されていたオルレアンを解放し百年戦争でフランスの勝利を導く転機をつくる。政治的判断により、庶子であると噂されていたシャルル7世をランスの教会で聖別させ戴冠式を敢行。パリ解放をはかるが、解放を望まぬ市民の反対を招き退却。コンピエーニュを支援中、30年ブルゴーニュ軍に捕われ、イギリス軍に引き渡され、ルーアン城に幽閉。イギリス軍の宗教裁判で異端宣告をうけ、同地の広場で火刑に処せられた。55年異端から名誉回復され、18世紀末から愛国者として国民的賛美の対象となる。(『コンサイス人名辞典 外国編』より抜粋)

 曰く「オルレアンの少女」「救国の聖女」「男装の乙女」。彼女を讃える二つ名は数多ある。だが彼女の真実を知るものは少ない。魔女の汚名と聖女の盲信の合間に潜む真の姿を、大著『フランス革命史』で知られる19世紀フランスの偉大な歴史家ジュール=ミシュレが描く。混迷を極める現代日本にこそ彼女のような無垢なる英雄が必要なのかも知れない。


 立派な歴史書。しかも1853年初版の半端ない奴です。原注・訳注が入り乱れて読み辛い事この上ありません。そのくせ、人名地名はほぼノーヒントのまま出てくるので本気で泣けます。本文150P切ってるのに読了まで二日かかりました。お固い研究書らしく、三分の二近くを裁判記録の分析に費やしており、正直読み物としてはあまり面白くありません。
 血沸き肉踊る勇壮な英雄譚やジャンヌ萌えは期待するだけ野暮です。中世ヨーロッパ史の基本と、15世紀中央ヨーロッパ貴族の家系図を頭に叩き込んでから、覚悟を決めて読みましょう。


 涙目になりながら読みきったのを無駄にするのももったいないので、半可通のジャンヌ=ダルク講座。にわか仕込みここに極まれりの付け焼刃なので、お詳しい方は訂正突っ込みおねがいします。
 まずは当時の情勢。永く続く百年戦争も後期の15世紀半ばのフランスには大きく分けて三つの勢力がありました。先ずは本作の主人公側、先帝シャルル6世の嫡男シャルル7世を担ぐ王太子派。敵役は幼帝ヘンリ6世を擁立するイギリス軍と、善良公フィリップに率いられたブルゴーニュ派。*2
 哀れなシャルル7世は、何故か実母に疎まれ*3、妹はヘンリ5世に嫁いでしまいました。その為、彼女の産んだフランスイギリス両家の血を継ぐヘンリ6世に王位継承権を奪われています。しかも、国内最大貴族のブルゴーニュ公は父無畏公ジャンを王太子派に暗殺されている上、経済上の利害もイギリスと一致する為完全に敵と言うのが当時のシャルル7世の置かれた苦境です。この逆境を我等がジャンヌ嬢は如何にひっくり返すのでしょうか。

 さて、13歳にして大天使ミカエルからの電波を受信してしまった哀れなジャンヌは、三年後生まれ故郷の村を旅立ち、シノン王太子シャルルの下に向かい、オルレアンの解放とランスでのシャルルの戴冠を託宣します。溺れる者は藁をも掴むのたとえ通り、二進も三進も行かなくなっていた王太子シャルルは周囲の反対を押し切り、このいかがわしい巫女を信用することにしたようです。
 十ヶ月もの長きに亙る攻囲戦に疲れたイギリス軍はいとも容易く追い払われ王太子派は神の祝福の己にあるを証明しました。迷信の支配する当時のこと、栄光の頌歌に援護された軍勢は破竹の勢いでランスに進軍し、王太子シャルルは晴れてフランス王シャルル6世への聖別に成功します。オルレアンの少女の名声はこの時頂点に達したようで、教会大分裂のいずれが正当かの質問に答えたりなんかもしてます。ちなみに、ジャンヌ軍快進撃の背景には教養のない田舎娘の騎士道を無視した下品で野蛮な戦術*4があったとされています。ここら辺我が邦の英雄義経と印象がかぶりますね。

 勢いづいたジャンヌは周囲の反感の空気も読めずパリへと進軍しますが、神憑りは長く続かず敗退してしまいます。預言を果たし役割を終えた巫女に神は味方しません。パリ近郊のコンピエーニュにてブルゴーニュ派の攻撃を受け俘囚へとその身を転じました。
 以降はただ悲惨の一期に尽きます。幸運にも拷問こそ免れましたが、長い拘留と執拗な誘導尋問は少女の心を砕き、異端供述を引き出します。その宣誓書に記された丸に十字のサインは、神に誑かされ、政治に裏切られた目に一丁字もない哀れな田舎娘の悲劇を象徴しています。

 

「何を正義とすればいいの?」

 ぶっちゃけジャンヌの「-救世主 メシア-」に触発されて手に取った本にこんなに苦労するとは思って見ませんでした。暫く西洋史には手を出さないことにします。嗚呼漢字まみれの日本史が懐かしい。

 混沌と混迷の世界を正すには旗印と人身御供が必要なのはわかりきったことですが、何も知らぬ哀れな少女に白羽の矢が立つ様は見ていて心が痛みます。政治と戦争くらいは男手一つで解決できないものでしょうか。願わくは悲劇のヒロインのこれ以上増えないことを。それとも今後は悲劇のヒーローの時代?

今日の一行知識

世界史上有数の殺人鬼「青髯」ジル=ド=レエはジャンヌ=ダルクの部下
ルネッサンス直前のヨーロッパ暗黒時代最末期の混沌にふさわしい百鬼夜行ぶりですね。


Z-HARD

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*1:ヴィジュアル系バンドのJanne Da Arcとは綴りが違います。ファンの方はご注意を

*2:この三君は当時のヨーロッパ貴族の例に漏れず複雑な血縁関係で結ばれており、シャルル7世を中心に見ると、ヘンリ6世は甥、ブルゴーニュ公は又従兄弟に当たります。

*3:父シャルル6世は1392年に発狂

*4:ex.一騎打ちを無視した投石器の最大活用