最近何気に忙しいです。他に浮気をしつつとはいえ、文庫のエッセイ一冊読み切れんてどーよ。あんま間を空けるのもなんなので、読み返す必要のない倉田英之『R.O.D』集英社スーパーダッシュ文庫(2000)のレビューを。出版社から分かると思いますが、いわゆるラノベ*1です。苦手な人は早めの御撤退を推奨します。最近の作品で、読んだのも大学生になってからですが、ラノベでは一番のお気に入りの小説で、携帯のアドレスや余所で名乗ってるHNはこれが元ネタだったりします。なので過分な思い入れで食傷されるでしょうが、お付き合い下さい。概論的解説、作者は来年1月26日発売予定のOVA版HELLSING(原作準拠)の脚本家倉田英之(アニメの脚本面白いの分かりますが、早く続き書いてください)、イラストは「おねがい☆」シリーズの羽音たらく、とアニメ畑のスタッフなので、場面構成がなんとも映像的です。では「文系アクション」の新境地を開拓した、純文学糞喰らえのぶっちぎりのエンターテイメント小説の神髄、ご堪能下さい。以下ネタバレ注意
R.O.D―READ OR DIE YOMIKO READMAN“THE PAPER” (集英社スーパーダッシュ文庫)
- 作者: 倉田英之,スタジオオルフェ,羽音たらく
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2000/07/01
- メディア: 文庫
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猫のいる街角で
主人公は大英図書館特殊工作部エージェント「紙使い」読子=リードマン25歳(コードネーム、ザ・ペーパー)。MI6ダブルオーナンバー(007のアレ)のイギリス人を父に日本人を母に生まれた彼女は、神田神保町に居を構え、怠惰と本をこよなく愛すビブリオマニアであり、運動と恋愛を害悪と見做す我ら生粋の文系硬派にとっては、まったくかくあるべき理想的正統派ヒロインです。
んで、ヒロインは菫川ねねね、13歳でデビューした売れっ子現役女子高生ラノベ作家。性格はいわゆる「男前」。作者は自分を彼女に仮託しているんでしょうが、アバターがこれってのも作者の歪んだコンプレックスを感じさせます。
脇役にも「全ての叡智を英国に」と嘯く読子の上司ジョーカーなど、濃いいのが揃ってて、作者の人物造形の腕の確かさを感じさせます。
肝腎のストーリーですが、アルバイトで産休講師としてねねねの高校に赴任した読子が、『ミザリー』ばりの変態ストーカーに誘拐されたねねねを救い出す。という単純なプロットで、キャラの魅力で勝負をかける昨今のラノベの見本の様な仕上がりとなってます。それぞれのキャラは多少記号的にではありますが、しっかりと設定されていて、まるで本当にそこにいるかのような存在感を醸しだします。まさに小説の「進化」*2ここに極まれり、といった感じです。
さて本来メインとなるべき戦闘シーンですが、作者の能力と主人公の能力*3が致命的に足を止めての殴り合いに向いてない*4ので非常に味気ないです。感想を書くにも読み返す必要がない程度には読み込んでる私ですが、再読の際は大概クライマックスの部分は読み飛ばしてます。おかげで正直今展開部分からラストシーンやエピローグへの繋がりが思い出せなくて困ってます。JOJO風超能力バトルがやりたいのは分かるんですが、自分の能力も考慮してプロット立てて欲しいもんです。キャラ造形の成功もあり、日常描写は秀逸なので、そちらに特化(かといって『かみちゅ』はやりすぎな気がしないでもないですが)した作品を量産して欲しいものです。
筋肉令嬢一〇〇万ボルト
なんの疑問もなく主人公とヒロインが同性ってところに現代日本の病理を感じなくはないですが、小説としての出来は多少いびつではありますが、ぎりぎり合格点が与えられるんじゃないでしょうか。そして私のように本の無節操なノンジャンル収集癖がある人種にとっては、麻薬のような魅力で離れられなくなります。作者の本への限りない愛情と、「純文学」への昏いコンプレックスは、私にとってはたやすく共感できる感情であり、それを一個の作品に仕上げられる力量は羨望と憎悪の対象でしかありません。
二巻以降は時間とネタがない時の埋め草として使う予定なので、ご期待下さい。しかしカタカナが増えると急に文章が頭悪くなるな、気ぃつけよ。
参考アニメ
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*1:ライトノベルの略。一応ジュブナイル小説の亜種?に成るのかな。ビジュアルノベルの別名の通り、アニメ系の挿絵を多用し、漫画と一般小説の架け橋たらんとするジャンル。なんだろうけど、勃興期の頃はともかく、恐竜的進化を遂げた現在では、一般層が手に取れる代物ぢゃなくなってる気が
*2:余談ですが、一度ラノベにはまった人間が一般小説を読む際の障壁になるのがこれです。恐竜的進化を遂げたラノベのキャラクターに慣れてしまうと、発展途上の「没個性」で与えられた役割を淡々とこなすだけの「大根役者」に耐えられなくなるのです。
*3:「紙使い」紙を自在に操る能力。非武装と誤認させた上での奇襲が主な戦術であり、お互いの能力をひとしきり披露した後で、雌雄を決するという現在定番のシュチュエーションでは、魅力的な攻撃も防御もほぼ不可能。山田風太郎の忍法帖みたく敵の能力をどう封じるかをメインに書けば魅力的な戦闘シーンに出来なくはないでしょうが、そうすると一番の魅力の日常シーンに割く枚数が不足するだろうし、難しいもんです。
*4:逆に言うと、雑魚を蹴散らすシーンや敵を追撃するシーンでの疾走感は格別です。