脱積読宣言

日々の徒然に読んだ本の感想書いたり、カープの応援したり、小旅行記書いたりしてるブログです

『峠の群像』

週刊少年Blog!!跡地:【殺】 三大殺人鬼キラを語るスレ 【殺】
 吉良吉景、夜神月、キラ=ヤマト。いずれ劣らぬ、現代日本の誇る悪のカリスマ達、彼等が揃って「キラ」を名乗ることで、「吉良上野介義央」の偉大さがよく分かります。300年の時を越え、絶対悪の象徴として、日本人の深層心理に刻まれ続ける悪役。作家にとってこれ以上の喜びはありえないでしょう。モデルにされた*1方はたまったもんじゃないでしょうが。
以下ネタバレ注意 

The powers that be just Breathe down your neck

小渕政権での経企庁長官で、晩節を汚しまくった堺屋太一氏全盛期の作品です。今を時めく人間の勢いを感じさせる力と自信に満ちた文章は、理屈抜きの説得力に溢れてます。前半後半で主題をがらっと変える無茶をやりつつも、きちんと着地させてしまう辺りにそれを感じます。上中巻は急速に浸透する貨幣経済に翻弄されつつもたくましくその時代を泳ぐ者達の群像劇。下巻は赤穂事件の顛末を抗いがたき無責任な世論を主題に構成。上と下では同じ作者が書いたとは思えないほど人物評価が違ってしまっていますが、文学ではなく「歴史物語」と割り切ってしまえばそれも苦になりません。
 堺屋作品の総論になりますが、彼の魅力は、経済畑で鍛えた理論的かつ文学的風味に乏しい硬質な文章と、広範な知識に支えられた、各所に散らばるトリビアルな注釈です。歴史に甘ったるい恋愛要素なぞ加えるとは、「極上の料理に蜂蜜をぶっかけるが如き愚行ッッッッ!!!」と思える人にはお勧めです。

 さて本論へ。っていっても今更「忠臣蔵」に語ることは余りありませんが、昨今流行の浅野内匠頭暗君論とそれを進めて大石内蔵助無能論を少々。ちなみに本作では両者とも、喪われつつある武士道に殉じた真の武士に美化されてますので、悪しからず。
 まず内匠頭から、まあ乱心で自分の家を潰した奴が名君なわけはないんですが、世間の見方は同情的で、上野介と逆に彼は「忠臣蔵」最大の受益者と言っても過言ではないでしょう。余程ブレーンが優秀だったか、治績自体は江戸では火事場名人と讃えられ、国許でも塩田の近代化に成功するなど、数々の実績に色どらていますが、血統的にも切れやすい*2性格を家臣が気にしていた節があります。この時代に正妻との間に子もいないのに側室を持たせて貰えなかったのはいい証拠でしょう。
 さて、一方の内蔵助ですが、筆頭家老でありながら、城代家老を新参の大野九郎兵衛に奪われるなど、内政手腕には疑問符がつきます。御家取潰の後も、残党を糾合し亡君の本懐を果たしたと言えば聞こえがいいですが、無責任な世論に浮かされた堀部片岡ら急進派を制御することができず祭り上げられただけに思えて成りません。

Yell out your peace

 経済道徳の急激な変化とそれに伴う好景気、しかしそれに乗り遅れるものも多く、世間には不思議な逼塞感が蔓延する、そんな現代日本とも容易に重ねあわすことのできる状況で、赤穂浪士達は英雄と言う名の生贄に選ばれました。実際、先の竹島騒動で、(自分に火の粉の降りかからない程度の)一戦あれかし、と願った日韓両国民も多いのではないのでしょうか。
 一度行動してしまえば、その善悪利害を無視して、無謀な急進派は英雄になり、冷静な穏健派は臆病者と罵られるのが世の常です。特に日本ではその傾向が強いように感じます。ヒロイックな幻想に惑わされず、敢えて臆病者の汚名に甘んじる事こそが本当の勇気なのではないのでしょうか。

今日の一行知識

尾形光琳は借金のし過ぎで弟の尾形乾山に縁を切られている
とかく芸術と道楽は金がかかるもの。てなわけで、当方も現在パトロン募集中*3です。

All I Want

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*1:しかも半ば以上濡れ衣

*2:母方の伯父も刃傷事件を起こして、家を潰している

*3:できれば綺麗なオネーサマを希望